ブレない

槇文彦さんの講演を聞いた。
大学2年生のときに、「東京都体育館」の現場事務所でアルバイトをしたことがある。当時の槇事務所は3年生でないとアルバイトができなかったのだが、3年生と偽ってやっていた(笑)。週に1回、槇さんが現場を訪れる日があった。そのときだけは、朝から事務所内に落ち着きがなくなる。そのときに槇さんを見たのが、はじめて見た有名建築家であったのかもしれない。模型をつくりながら槇さんとスタッフの打合せを盗み聞くと、確かに槇さんは、スタッフなんかよりも大胆な提案を行う。さすがだな、と思った記憶がある。
それでも槇さんは、ぼくにとって強い興味を持つ建築家ではなかった。その理由が、今回の講演会ではじめてわかった気がした。いろいろな建築家の講演を聞いているが、そういえば槇さんの話を聞くのは今回がはじめてだった。全体を押さえた上で個をつくる方法がある一方で、槇さん自身は、浮遊している個を繋ぎ合わせて全体をつくる方法を採ることがあると語った。その窓から何が見えるのか、といった部分を積み重ねることで全体をつくってゆく。全体のない(もしくはシステムのない)、そんなつくり方に、ぼく自身は興味を持てないのだと思う。
一方で、ぼくが強い興味を持つ槇さんの作品は「SPIRAL」である。槇さんは、「SPIRAL」のファサードについて、内部のプログラムが表出しないデザインがうまくできたと語った。その非合理である故のおもしろさが、「SPIRAL」のファサードであると。単なるモダニズムではない、そんな非合理さを持つことが、ぼくにとって「SPIRAL」を魅力的なものにしているのだろう。
そして最後に、「ブレないこと」が大事であると語る。何をもって「ブレない」とするのかにもよるのだが、例えば篠原一男は、第1〜4の様式まで変化を遂げていて、その意味では「ブレた」建築家であろう。そんな、自分自身を超えて前進するために、ときとして過去の自分を否定する振る舞いを見せる建築家やアーティストがいる。そんな人たちにこそ、ぼく自身は強い興味を持つ。巨匠と自分を比べるつもりはないが、そんなところにも大きな違いがあるように思った。

建築 | Posted by satohshinya at May 31, 2008 23:33


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