音楽と映画と美術館

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ZKMMedienmuseumに新しいスペースが登場した.「Das Museum der zeitbasierten Künste : Musik und Museum - Film und Museum」展と題し,音楽と映画という時間芸術を美術館の展示スペース内に組み込むためのものであり,音楽(Institut für Musik & Akustik)と映画(Filminstitut)のそれぞれの部門を持つZKMならではの試みである.

コンサート映像を上映するKonzertRaum,電子音楽アーカイブを常設するHörRaum,映画を上映するFilmRaumの3室が新たに作られた.とは言っても,ビデオインスタレーションを上映していた展示室を改造しただけで,残念ながら特別に建築的な仕掛けがあるわけではない.しかし,企画展に関連した映像を上映するだけでなく,美術館に展示されている作品として映画や音楽を扱うとことはあまり例がないように思う.
KonzertRaumでは「Ein Viertel der Neuen Musik」と題し,ルイジ・ノーノヴォルフガング・リームヘルムート・ラッヘンマンなどの現代音楽家による作品のコンサート映像に解説テキストを被せたものが上映されている.HörRaumでは,国際的な電子音楽アーカイブであるIDEAMA(The International Digital ElectroAcoustic Music Archive)から好きな作品を自由に選び出して鑑賞することができる.FilmRaumではアニエス・ヴァルダの作品や,FilminstitutのディレクターであるAndrei Ujica自身による宇宙飛行士のドキュメンタリー作品などが上映されている.残念ながらフィルムではなくビデオプロジェクターを用いているのだが,貴重な作品を見ることができる.
しかし,確かにおもしろい試みではあるのだが,美術館に長時間滞在して映像を見続けるのは骨が折れる.これはこのスペースに限らず,ビデオアートの持つ問題でもあるだろう.美術館で日常的に貴重なコンサート映像や映画を見ることができる,という意味では画期的であるかもしれないが,既に映像を見るアートがこれだけ溢れている現在において,この行為にどのような意味があるのかを考えなければならない.もし上映(展示)される場所やクオリティがどのようなものでもかまわないのであれば,いっそのことYouTubeで見ることができればもっと画期的なのかもしれないけれど.

@karlsruhe, 映画, 美術, 音楽 | Posted by satohshinya at October 27, 2006 17:40 | TrackBack (0)

1ファンのたわごと

『スチームボーイ』を見た.正直言って,ほとんど絶望的な気分で映画館へ行った.
僕は『アキラ』の連載が始まる前からの大友克洋の大ファンだった.今でも,最も衝撃を受けたマンガだと思う『童夢』を読んでから,既に20年以上が経過している.その神様みたいな大友が,9年と24億円を掛けて映画を作る.あの『アキラ』でさえ,連載開始から,最後の単行本が出るまでが約10年で,その間に『AKIRA』も作っている.そして,今回の舞台は19世紀のロンドン.正直言って,企画が始まった時点から,おもしろいはずがないだろうと思っていた.それなのに,こんなに長い期間を掛けて……(ちなみに,『アキラ』はマンガ,『AKIRA』は映画.)
案の定,公開後の評判は最悪なものだった.特に夏目房之介さんが,自身のblogに《『スチームボーイ』はどうなんだろう.大友が抱え込んじゃったものだけに,ちょと不安はあるね.》と書いている.夏目さんに《大友が抱え込んじゃったものだけに》と言われてしまうと……そうだよな,9年間も抱え込んじゃったんだよな,とますます暗い気分になり,映画館に足が向かなかった.
そして,ようやく見た.結果は,とてもおもしろかった.これは紛れもない大友作品だった.この作品に批判的な人たちは,一体,何を大友克洋に望んでいたのだろうか? 『AKIRA』みたいな映画? 僕にとっては,『アキラ』以前の作品が,本来の大友作品だと思っている.むしろ,『アキラ』は少しハードすぎた.
『Fire-ball』は兄弟,『童夢』は女の子とおじいちゃん,『アキラ』は幼なじみ,そして,『スチームボーイ』は親子三代の話.それが,当事者以外の人から見ると,大事件に見えたり,戦争に見えたりするというのが基本的な構造.そして,その事件を冷静に見ている子どもたちの視線が描かれる.『童夢』もそうだし,初期の『宇宙パトロール・シゲマ』だってそう(まあ,今回のロンドンの子どもたちは中途半端だけど).スカーレットの行動がおかしいという話もあるが,これも初期の『酒井さんちのユキエちゃん』を彷彿とさせる.大友らしい女の子.もちろん,『AKIRA』の世界観から言えばアウトとなるキャラクターかもしれないが,この冒険活劇の中では違和感はない.科学に対する,少し説教じみたスタンスも,やはり『アキラ』の終盤で描かれていたことと同じ.それが陳腐だというならば,『アキラ』も大差ない.
褒めているのか貶しているのかよくわからなくなったが,結論としては,『アキラ』や『AKIRA』の亡霊を追い求めて映画館に行くのであれば,それはやめた方がよい.1つの娯楽大作として『スチームボーイ』を見るのであれば,絵の魅力とあいまって,必ず楽しめると思う.
そして,エンディングロールは,映画に更に拡がりを持たせるための粋な演出であって,次回作を予告するものなんかではないと思う.続編なんていう話も出ているようだが,間違っても大友には,そんなものはやってほしくない.『スチームボーイ』の続きが見たくないとかそういう意味ではなく,これで本当に続編があったとしたら,あのエンディングが台無しになってしまう.あれは,1本の映画として完結するためのエンディングであって,むしろその期待感を持たせることが重要である.
そして,まだ見ていない人がいるならば,ぜひ映画館の巨大なスクリーンで見てほしい.画面は全体に暗く,おそらくDVDで見たって,どこまで再現できることやら.それに,大友の全体を貫く画面構成は,巨大なスクリーンで見て初めて最大の効果を発揮する迫力を持ったものだ.小さな画面で見ることだけは勘弁してほしい.

映画 | Posted by satohshinya at August 11, 2004 6:00 | Comments (1) | TrackBack (1)

偽物の本物

「スターウォーズ サイエンス・アンド・アート」国立科学博物館)を見た.小学校5年生で見た『スターウォーズ(エピソード4 新たなる希望)』(そして,同年に見た『未知との遭遇』)は,僕にとって原体験とも言える映画で,大きな影響を受けてきた.そんなスターウォーズ・サーガの撮影で使用された,様々な本物が展示されているということで,京都国立博物館で展示が開始された頃から大変楽しみにしていた.『エピソード5 帝国の逆襲』『エピソード6 ジェダイの帰還』までは,文字通り実際に映画に登場する模型などが展示されている.それに対し,特殊視覚効果の技術的な進歩が背景にあって,『エピソード1 ファントム・メナス』『エピソード2 クローンの攻撃』の展示では,衣装や実物大の乗物を除けば,模型の大半が実際の映画では使われていない参考のためにつくられたものであり,使われていたとしてもCGによって処理されているため,どちらかというと撮影の素材という感じであった.
それでは,『エピソード4〜6』の本物の展示が感動的なものであったかというと,思ったほどではなかった.展示の内容に不満があったわけではないのだが,結局,これらの展示は本物であるかもしれないが,僕にとっての本物ではなかった.いくら撮影に使われた本物のミレニアム・ファルコンが目の前にあったとしても,映画の中で飛行しているミレニアム・ファルコンが僕にとっての本物であって,今回の展示物は偽物のようにすら見えた(ちょっと極端だけど).
オマケに書くと,僕にとっての(フィルムで撮影されている)映画は,映画館のスクリーンで見るものが本物であって,ビデオで見ることは偽物を見ているようなものだと思っている(これも極端だけど).少なくとも,別のものだとは思う.更にオマケに,『エピソード2』はフィルムを全く使っておらず,全てデジタルビデオで撮影された.日本でも数カ所ではデジタル上映が行われたが,僕はフィルム上映しか見ていない.それでは本物を見ていないのではないか,という話もあるが,どうなんでしょうか?

『エピソード4〜6』のDVDが,ようやく9月23日に発売される.もちろん1996〜97年に公開された特別篇のDVD化である.『エピソード3』は来年7月(全米は5月19日)公開予定.本来は9部作と言われていたが,現在では6部作と修正されているため,最後のエピソードとなる.

エピソード3のタイトルが決定した.『Revenge of the Sith』.日本では『シスの復讐』ということになるのだろう.エピソード6は,当初は『Revenge of the Jedi』というタイトルで,日本では『ジェダイの復讐』だったのだが,故あって上映前に『Return of the Jedi』に変更になった.日本タイトルは変更にならなかったが,9月のDVD化から,『ジェダイの帰還』に変更になるという.つまり,エピソード3との関係で今更ながら変更になるということらしい.(04.07.28.追記)

映画 | Posted by satohshinya at June 20, 2004 10:45 | TrackBack (0)

追憶の『ビューティフル・ドリーマー』

押井守脚本・監督の『イノセンス』を見た.僕は押井守の大ファンということになっているのだが(余談だが,誕生日が同じである),実は前編である『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』を見ていない.しかも,押井の作品を映画館で見るのは,『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』以来,20年ぶりになる.『天使のたまご』や『パトレイバー』はビデオやテレビで見ていたが,それほど押井作品を熱心に見続けていたとは言い難い.
押井が『うる星やつら オンリー・ユー』をつくったとき,不運なことに同時上映が相米慎二監督の『ションベン・ライダー』だった.有名な話だが,それを見た押井は,こんな勝手な映画でいいのかと頭に来て,次に『ビューティフル・ドリーマー』をつくった.そんな因縁は後から知った話だが,当時15歳だった僕は,この2作品から大きな影響を受け,相米,押井の2人は僕にとって重要な映画監督となった.
『イノセンス』については,そんな僕からすると,それほど楽しめる映画ではなかった.書店で立ち読みしただけだが,東浩紀「ユリイカ」4月号で,「追憶の『ビューティフル・ドリーマー』」という文章を書いている.彼は僕より3歳年下なのだが,かなり似たような感想を持っているようなので,『イノセンス』評についてはそちらを読んでほしい.「朝日新聞」で亀和田武が,この評を酷評していたが,『ビューティフル・ドリーマー』を思春期に見た者にとっては,『イノセンス』を押井作品として素直に評価することはできない.やはり東浩紀と同じことを書くことになるが,とにかく『ビューティフル・ドリーマー』を見てほしい,としか言えない.

ちなみに,建築に興味がありそうな人が多いので,イノセンスのホームページ内に,「人形と建築の旅」という押井守のエッセイがあります.結構な量があるので,暇なときにでも.

映画 | Posted by satohshinya at May 1, 2004 21:07 | TrackBack (2)