デパート@osaka

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国立国際美術館「塩田千春 精神の呼吸」を見る。万博公園から移転以来、ここを訪れるのは2度目だが、やはり国立美術館にしては残念な建築だ。設計者であるシーザー・ペリのwebを見ればわかるように、設計者の興味は地上のオブジェに集中しているようだ。確かに美術館本体はすべて地下であり、非常にわかりにくい場所であるから、ランドマークとしての機能は十二分に果たしているであろう。しかし、このようなデザインである必要があったのか? また、もしこのデザインがよいとして、このような無骨な形で実現すべきであったのか? そこが気になるところだ。模型を見ると、部材の大きさ、デザインともに悪くないようにも思えるのだが、現実の大きさに変換するときの操作があまりにも杜撰に思える。
美術館内部は、エレベータで地下に降りてゆく有様が、空港やデパートなどの商業施設を思い起こさせた。しかし、今回は少し違った感想を持った。地下1階から地下2階へと塩田の展示会場へと降りてゆくとき、館内案内にある「展示室4」が目に入ってくる。ここは吹き抜けとエレベータがゴチャゴチャと混在するホワイトキューブからはほど遠い展示空間であるが、ここに塩田の『DNAからの対話』と題された靴と赤い毛糸の作品が展示されている。その姿がエレベータに乗っている観客の目に真っ先に入ってくるのだが、ここに作品が展示空間をものともしないような強さを持って置かれている。むしろ、さまざまな角度から見ることができるし、地上から自然光が降り注いでいるし、ここが理想的な展示室に思えてくる。続く「展示室5」に置かれている『眠りの間に』も、大きな開口部越しに中が窺える。だからよい展示空間であるというわけではないが、この展示空間を十二分に用いた迫力あるインスタレーションであった。地下3階では「モディリアーニ展」をやっていたが、こちらは東京で見ているのでパスしたが、地下に降りるためには嫌でも目にする塩田の展示は、モディリアーニを見に来た人たちにもアピールしたことだろう。その意味では、エレベータに面する部分を単なるホールとせずに展示室として扱っているところが、この美術館の最大のポイントである。一方で、この空間を魅力的に使うためには、作品の大きさであったり、展示方法であったり、キュレータの力が重要になる。
一方で塩田千春の展示自体は、確かに迫力もあるし、完成度も高い。一方で、アブラモヴィッチに師事していたり、ドイツに拠点を定めていることから、その師匠や、キーファー、ホーン、他にもボルタンスキーなんかを思い浮かべると、なんとなくシリアスさが感じられない。それが現代的な作家である所以なのかもしれないが、一方で「コレクション2」と題して石井都、宮本隆司の写真作品を展示してあり、こちらのシリアスさと余計に比べてしまう。中原佑介が台風を使って塩田を評していたけれど、ちゃんと読んでおけばよかった。何れにしても、このような作品をまとめる力量に今後も期待させられる。展示の様子は、を参照のこと。

美術 | Posted by satohshinya at August 23, 2008 22:48 | TrackBack (1)

元小学校@kyoto

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行ってみようと思っていたのだけれど、これまで1度もその機会がなかったが、ようやく京都芸術センターを訪れることができた。運営の詳しい話を聞かなければわからないが、予想以上に理想的な環境がつくられているように見えた。何よりも元々の小学校が魅力的である。ほとんど内装に手を加えていないようだが、内部にスロープもあったり、余計なリノベーションをせずとも十分だったろう。唯一、エレベータだけが外付けされているが、2階ではそれを繋ぐ廊下が校庭へ向かったテラスとしてうまく機能している。北側のギャラリーが外部からアプローチするところも頼もしい。詳しくはこちらを参照してほしい。この中学校も、このくらいの魅力ある場所として再生することを期待したい。
ようやく訪れるきっかけを与えてくれたのは、Nibroll矢内原美邦たちによるoff nibrollによる作品。2階の講堂を用いて、『"the only way out of the function" 青春』という映像を用いたインスタレーション作品を展示していた。講堂を暗くして、プロジェクタだったり、モニタだったり、さまざまな形式による映像作品がポツポツと並び、それぞれが独立した作品でもあるようだし、全体で1つの作品となっているようにも思える。そして、真ん中の机に詩が置いてある。これってどこかで読んだことがある。この間の『五人姉妹』のパンフレットだったかな? 最も気に入ったのは、スライドプロジェクタを用いた6枚組(だったと思う)の矢内原本人らしい写真を組み合わせたもの。他の映像作品の方がよっぽど凝っているのはわかるけれども、この静止した写真が最も存在感があった。学校であった場所を用いていることともシンクロしていたのかもしれない。スライドの醸し出す情緒が、記憶を表すのに適しているからかな? 一方で、やはりこういった映像作品が必要とする展示空間の暗さが気になった。もっと展示空間を有効に使う、闇を前提にしない作品も見てみたい。

美術 | Posted by satohshinya at August 21, 2008 22:23 | TrackBack (0)

どこでも美術@kyoto

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もう誰も読んでいないんだろうな、と思いつつ、久しぶりにアップしてみる。
アサヒビール大山崎山荘美術館で開催中の「アートでかけ橋」を見る。小沢剛、セリーヌ・オウ、パラモデルの3組が、美術館内だけでなく、大山崎町内の神社や集会所でも展示を行うという、今や一般的になりつつあるスタイル。しかし、作品、展示場所ともにおもしろく、久しぶりに展示場所を探して町をさまよう楽しみを味わえた。離宮八幡宮という由緒ある神社での小沢の巨大な写真、集会所を埋め尽くすパラモデルのインスタレーションなど、どれも見応えのある展示だった。区民会館で行われたオウの展示は、単なる蛍光灯の部屋に白い壁がつくられ、そこに整然と写真が展示してあるだけ。あらためて、白い壁が、無理矢理にでも展示空間をつくってしまうことに思い知らされる。
久しぶりに訪れた美術館は、ヨーロッパでいくつも見た邸宅が美術館になったものを思い出す。もう少しインスタレーション的な展示があってもよかったが、この空間でも十分に現代美術に対応できることがよくわかる。展示なんてどこでもできてしまう。しかし、ガラスケースに大事に飾られた醤油画とか、コロボックルの遺跡とか、何も説明が無いので、見た人はどう思うのだろう? こんな美術館での展示なのだから、全般的にもう少し説明があってもよいように思う。一方で、やっぱり安藤忠雄の増築がよくない。床がカーペットだからだろうか? スケールの問題? 山荘との関連性がなさすぎることも問題だろう。目立たないようにすればよいというものでなく、新しい山荘への視点を与えるくらいの工夫がほしかった。

美術 | Posted by satohshinya at August 20, 2008 22:59 | TrackBack (0)

メディアアート/美術館/展示構成

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ZKM正面

メディアアートを知っていますか?
それは絵画や彫刻と同じ美術の1ジャンルで、コンピュータやビデオなどのテクノロジーを用いた芸術表現です。最近では一般の美術館でも映像を用いた現代美術を見ることがあると思いますが、そんなメディアアートを専門に扱う数少ない美術館がZKMです。昨年の4月から1年間の予定で、海外派遣研究員としてカールスルーエのZKMに滞在しています。帰国する3月まで数ヶ月を残していますが、途中報告としてこの美術館の紹介を行いたいと思います。

ZKMの正式名称はZentrum für Kunst und Medientechnologieといい、アートとメディアテクノロジーのためのセンターという意味を持っています。メディアアートだけでなく現代美術や現代音楽などの部門も持ち、単なる美術館の活動に留まらないさまざまな新しい芸術表現について、研究、制作、公開を行っています。カールスルーエ市はドイツ南西のバーデン=ヴュルテンベルク州に位置し、城を中心に放射状の道路が拡がる18世紀に作られた都市計画が特徴です。城の正面にはStrassenbahn(シュトラッセンバーン)と呼ばれる路面電車の往来する街が拡がり、背後には美しく大きな庭園に続いて深い森が拡がっています。

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エントランスホール

なぜ美術館に滞在しているのか?
ZKMではMedienmuseum(メディアミュージアム)という部門に所属しています。ここはメディアアートのすばらしいコレクションを所蔵し、その名作の一部を常設展示として公開するとともに、年に数回の企画展示を行っています。美術館では、どのような作品を並べるか、どのような順序で見せるのか、といった展示作品の編集作業により、作品そのものの受け取られ方が変化します。また、展示空間によっても、作品がよく見えたり、そうでなかったりすることがあります。展覧会のコンセプトを考え、それを元に編集作業を行うのが学芸員の役割で、学芸員とともに展示空間のデザインを考える役割を、ドイツ語ではAusstellungsarchitektur、日本語では展示構成と呼んでいます。
ドイツの美術館の多くは企画展示用の大きな展示室を持ち、展覧会の内容に合わせた空間を作り出すために、巨大な展示壁が毎回作り替えられます。ZKMでは基本的に厚さ90センチと60センチ、高さ3.7メートルの展示壁を用いています。それはアルミフレームに木製板を貼り、ペンキを塗って仕上げられます。重量のある作品を展示する場合もあるため非常に頑丈に作られており、その設営はインテリア工事と呼べるほど大掛かりな作業で、ドイツ語で展示(=Ausstellung)建築という言葉が用いられている理由がよくわかります。そして、それを設計するためのデザイナーとして、空間をデザインする専門家である建築家が必要とされる場合があって、幸運にもZKMで展示構成を担当させてもらえることになりました。こうして、今回の研究テーマが現代アートのための文化施設であったことから、ZKMで実際の展覧会に関わる活動を行うとともに、ドイツ国内や隣国にある美術館を見て回ることを海外派遣の目的としました。

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メディアミュージアム

その美術館はどのような建物か?
ZKMは1918年に作られた兵器工場であった建物の中に入っています。全長は312メートルに渡り、10箇所の同じ形のアトリウム(ガラス屋根の大きな吹き抜け空間)を持つ長大な建物で、その半分をZKM、残りをカールスルーエ造形大学と市立ギャラリーが使っています。ここに限らず多くの美術館が、異なった目的のために建てられた建物を再利用しています。有名なパリのオルセー美術館は元駅舎であったし、それ以外にも元住宅、元宮殿、元銀行といった美術館が数多くあります。これにはいろいろと理由が考えられるのですが、作品が展示可能な大きさの空間さえあれば美術館となってしまうということかもしれません。また、特に現代美術では場所に合わせて作品を展示することが多いため、歴史的な背景を持つ年代を経た建物の方が、作品と展示空間に複雑な関係を生み出すことができるのかもしれません。
ZKMは当初、コンペ(設計競技)によって選ばれたレム・コールハースの案を新築することになっていましたが、経済的な理由などによって中止となり、現在の建物を再利用することになりました。その経緯からすると、メディアアートのための展示空間に歴史的建造物が必ずしもふさわしいわけではなかったかもしれません。結局、ペーター・シュヴィーガーにより改修が行われ、ランドスケープデザインをディーター・キーナストが行って、現在のZKMが完成しました。

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キーナストによる島状のランドスケープ

どのような展示が行われているのか?
メディアミュージアムに展示されているメディアアートは、コンピュータなどを用いることで、観客と作品の間にインタラクティブ(相互作用)な関係をつくり出すものが多くあります。その中で最も人気のある作品の1つに、古川聖さんとウォルフガング・ミュンヒによる『しゃぼんだま(Bubbles)』(2000年)があります。古川さんは作曲家で、東京藝術大学助教授であるとともに、ZKMのアーティスト・イン・レジデンス(施設に滞在して作品制作を行う)で活動しており、今回ZKMを紹介していただいた恩人でもあります。この作品は、上方から落ちてくるシャボン玉の映像がビデオプロジェクタにより映し出され、スクリーンの前に立つ自分の影がシャボン玉に触れると音とともにはね返るという単純なものです。しかし、その単純さ故か、子どもから大人まで多くの人たちに楽しまれていて、単に作品を一方的に鑑賞するだけでなく、観客自身が作品に参加することができるメディアアートの特質を見事に現しています。

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『しゃぼんだま』W. ミュンヒ+古川聖

展示構成の活動としては、「Interconnect@ between attention and immersion」と題されたブラジルのメディアアートを集めた展覧会を担当しました。セルジオ・モッタ賞の受賞作と候補作から12作品が選ばれ、そのための展示空間が必要となりました。メディアアートの場合、ビデオプロジェクタを用いた作品が多く、画面を鮮明に映し出すために展示室内を暗くしなければなりません。今までの美術館が絵画や彫刻の鑑賞にふさわしい明るさ(照明)を確保することが重要であったのに対し、メディアアートの展示室は暗さが重要です。音を発する作品も多く、隣り合った作品同士の音が混ざり合わない工夫も必要になります。そのため、多くの作品が独立した部屋を必要とし、限られた展示室に多くの小部屋を作らなければなりませんでした。このようにメディアアートのための展示空間は、これまでの美術館の展示室とは大きく異なり、これらにふさわしい建築空間を考えることが今後の課題の1つであると思います。

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ブラジルのメディアアート展

最近の活動としては、12月から開催されている「マインドフレーム(MindFrames)」展の展示構成を行いました。これはメディアアートの代表的な作家であるステイナ+ウッディ・ヴァスルカ夫妻を中心とした展覧会で、メディアミュージアムの地上階を全面的に使った大規模なものです。ZKMに滞在しているヴァスルカ夫妻や学芸員と話し合いながら、従来の美術館の展示室とは異なる8つの部屋をデザインしました。これについてはまた別の機会に、訪問した他の美術館とともに紹介することができればと思います。

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「マインドフレーム」展設営中

「駿建」2007年1月号)

美術 | Posted by satohshinya at July 10, 2007 21:29 | TrackBack (0)

通信と建築と映画と世界文化と応用美術@frankfurt

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「Museum für Kommunikation Frankfurt(フランクフルト通信博物館)」は郵便や電話などのコミュニケーションをテーマにした博物館で,展示室の大部分が地下にあり,平面に円形を用いた展示空間が拡がっている.

展示室を進むと,天井の高さが低い小部屋にアートコレクションが展示されている.そこは円形プランとは無関係で,ボイスクリストのコミュニケーションをテーマに扱った作品が並んでいる.実はここの敷地内にも邸宅が建っており,その建物も博物館の一部として事務機能などに使用されていて,地下の基壇部分を展示室に再活用していたのだった(写真は地下からガラス屋根を通した邸宅).元々この博物館は,邸宅だけを用いて1958年にオープンし,その後90年にギュンター・ベーニッシュ設計によって増築が行われた.邸宅と展示室の関係は展示を回っているだけではよくわからなかったし,展示目的で訪問する観客には邸宅はあまり気付かれない存在である.それらの関係を理解して見るとおもしろくはあるのだが,もう少しその関係がわかりやすいものであったらよかっただろう.そして,その結果に得られた展示室がおもしろいものであれば尚更よいのだが,残念ながらそれほどではない.(参考リンク:展示紹介建築紹介

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入口脇には馬の銅像があり,そこにはパイクの作品も置かれているのだが,残念ながら修復中のために写真が展示してあった.博物館内部も改修中のためか館内に足場が組まれていた.ベーニッシュのデザインには足場があってもそれほど違和感を感じないのがおかしかった.そして,このパイクの写真を支持するためにもごていねいに足場が組まれていた.
その並びには「Deutsches Architektur Museum(ドイツ建築博物館)」があり,ここもO.M.ウンガース設計の邸宅改修により1984年にオープンしている.(参考リンク
更に隣には「Deutsches Filmmuseum(ドイツ映画博物館)」があって,Helge Bofinger設計により同じ84年にオープンしている.ここも邸宅を改修して使用しているようで,常設展示として映画の歴史や技術を紹介している.企画展示は81年のウォルフガング・ペーターゼン監督作品『Das Boot(U・ボート)』を紹介する「Das Boot Revisited」展を開催中で,撮影に使われたUボートの模型をはじめとして,さまざまな資料やインタビュー映像など,充実した内容による展示が行われていた(展示室写真).25年も前のたった1本の映画だけで,これほどしっかりした展示を行っていることに驚く.日本ではあり得ないだろう.(参考リンク
続いて3棟の邸宅を利用している「Museum der Weltkulturen(世界文化博物館)」がある.3棟がどのように使われているのかはわからないが,右端の1棟を裏口から入ると「Galerie 37(ギャラリー37)」が地下にある.ここでは「Leben mit Le Corbusier」展と題した,カメラマンBärbel Högnerによるチャンディガールを撮影した作品を展示していた.チャンディガールはル・コルビジュエが都市計画を行ったことで有名だが,完成から40年後の街と人々の日常的な様子を紹介している.
更にその並びには「Museum für Angewandte Kunst Frankfurt(フランクフルト応用美術博物館)」があり,リチャード・マイヤー設計の増築が1985年に完成している.(参考リンク

美術 | Posted by satohshinya at January 19, 2007 17:05 | TrackBack (0)