U字型@basel

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「Kunstmuseum Basel(バーゼル美術館)」は1671年にオープンした世界で最も古い公共美術館であるそうだ.建物自体は1936年にRudolf ChristとPaul Bonatzにより設計された.Bonatzはシュトゥットガルトのスタジアムや中央駅も設計している.そんな細かいことは後から知ったことで,訪れた時は普通の美術館だと思いながら見ていた.

コレクションはヨーロッパの標準的な品揃えに思える.実際はかなり充実したコレクションなんだろうけれども,ヨーロッパの美術館を数多く見て歩くたびに大分感覚が麻痺したようだ.現代美術も揃っていて,ジャッドやリキテンシュタインが並んでいる様子はどこかの美術館を見ているよう(しかし,ここの情報を久しぶりに見ると,なんと今はこんなものをやっているとのこと.大丈夫か?).2階と3階がコレクション展で,中庭を囲んだ展示室を年代順に2周する.もう1つ小さな中庭を囲んだ2階が企画展示室で,「Hans Holbein d.J.」展というホルベインが若い頃にバーゼルで描いた作品を集めたものを開催中だった.
ここの姉妹館がEmanuel Hoffmann財団と提携している「Museum für Gegenwartskunst Basel(バーゼル現代美術館)」.ほとんど期待せずに行ったのだが,かなりよい美術館だった.
ここはライン川沿いに位置しており,小さな川(運河?)が中央を流れる狭く複雑な形状の敷地を持ち,片側に既存建物(19世紀の紙工場を改修して使用),川を挟んで増築部分を配置している.設計はWilfrid and Katharina Steibで,1980年にオープンし,2005年にリニューアルされたらしい.彼らもシュトゥットガルト州立美術館の旧館増築を手掛けている.80年代らしいデザインのためか外観は格別なものではなく,敷地条件のためにこのようにしか建てられなかっただけかも知れないが,結果的にできた展示室が大変魅力的なものになっている.

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ここでは「Emanuel Hoffmann-Stiftung」展というEmanuel Hoffmann財団からのコレクション展が開催されていた.建物のあちこちに分散されて展示された作品はなかなかおもしろいものばかり.無料で配布していた各作家の解説を掲載した小さなブックレットもよくできていた.特に再び出会ったFiona Tanの作品がよかったが,一面がガラス張りで吹き抜けを持つ展示室に小さな暗い部屋を作っているのは無理矢理な感じだった.財団のコレクションとともに美術館自体のコレクションも混在して展示されているのだが,これらを見るために4階建ての既存と増築を行ったり来たりする.展示室はやはりホワイトキューブだが,蛍光灯が素っ気なく露出して付けられていたり,既存の窓周りを斜めに縁取っていたり,装飾的な既存柱をオブジェのように部屋の中央に残したり,さりげないデザインが非常に効いている.

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最上階には天井高が高くトップライトを持つ大きな展示室があり,Daniel Richterによる大型の平面作品を集めた「Hunterground」展が開催されていた.作品自体も幻想的な具象画で,色の使い方が独特なおもしろいものだった.下階から螺旋階段を上がるとそのまま大きな空間に出るのだが,複雑な形状をした展示室の平面がU字型を描いていて,トップライトもそのままU字型になっている.トップライト自体の形状も悪くない.一続きの部屋だがU字型の平面形状のために空間が緩やかに分割されていて,様々な距離感で作品を見ることができる.例えるならば伊東豊雄さんの「中野本町の家」(1976)みたいな平面計画.もちろんあんなにストイックではないけれど.
バーゼルは他にも建築デザインとして優れた美術館が数多くあるので,必ず訪れるべきなんてことは言いにくいのだが,建築家自身の過剰なジェスチャーの少ない,良質な展示室を持つ美術館であることは間違いない.

美術 | Posted by satohshinya at August 3, 2006 23:17 | TrackBack (0)

ウィンドウショッピング@basel

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ようやくバーゼル編に突入.世界的なアートフェアである「Art 37 Basel(アート・バーゼル37)」に行く(気の早いことにwebは既に来年の情報を掲載中).会場は「Messe Schweiz」の2つの展示場.基本的にはお金持ちがアートを買いに来る見本市を,入場料を支払って一般の人々がウィンドウショッピングするというもの.

日本にも同様なアートフェアとして「アートフェア東京」(かつてはNICAFという名前だった)があって,会場内も同じように大きなメッセ空間を壁で細かく仕切ったブースが並んでいるだけなので,一見すると同じような雰囲気に思える.しかし,展示されている作品の質が高いことと,それを本気で買いに来ている人たちが半端でないほどお金持ちに見えることが決定的に異なっている.だからこそ世界中のギャラリーから最新の作品が集まってきて,それを見るだけでアートの最新動向がわかるということになるらしいが,会場があまりにも広いために見ているだけでクタクタになる.もちろん商売がメインであるのだから商品がよりよく見えることも考えていると思うが,同時に少しでも多くの商品を並べる必要もあって,最適な環境で作品を鑑賞するなんていう状況からはほど遠い.ちなみにこのギャラリーが並んでいたのがHall2で,Hans Hofmann設計により1954年にオープン.
もう1つの会場であるHall1は,Theo Hotz設計により99年にオープンしたもの.ここでは「Art Unlimited」展をやっていて,ブースに納まらない巨大な作品が並べられていた.これも売ってるものなのかも知れないけれど,美術館以外に誰が買うのだろうかという代物ばかり.インスタレーションやメディア・アートが多く,作品毎に壁で仕切られた部屋を持つか,部屋と部屋の間の通路に面して展示されているかのどちらかで,雰囲気としては横浜トリエンナーレ(特に1回目)のような感じ.つまり囲われたホワイトキューブを必要とする作品と,囲い込まれた場を必要としない自立した作品に分けられていて,やはりメディア・アートは囲い込まれた単なる暗い部屋が用意されていた.残念ながら「アート・バーゼル」だからといって特別な展示方法が採られているわけではなかった.よい作品も中にはあったが,共通したテーマや場所との関係といったコンテクストが全くなく(商品を並べているだけだから当たり前だけど),ただ脈絡もなく作品が並んでいるだけなのも残念だった.その中に石上純也氏のテーブルが展示されており,日本人建築家の作品であったためか,後でこの作品を見た人たちからいろいろと質問を受けた.さすがに話題となっていたようだけれども,これってアートなのかな?
屋外展示まであって,写真の噴水もパブリック・アートの1つ.さすがに話題のアートフェアなので,いろいろと報告記事・写真も多いので関連リンクを紹介(京都造形大の研修報告Unlimitedの報告女性起業家の報告お金持ち向けの情報).
ちなみに会場となったメッセは2012年に向けてH&deMが再編成を行うようである.バーゼルには彼らの事務所があり,お膝元だけあって大きな仕事だ.完成したらすごいもの(悪い意味で)になりそう.

美術 | Posted by satohshinya at August 3, 2006 13:28 | Comments (2) | TrackBack (1)

フェスティバルの時には@linz

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リンツの最後は「O.K Centrum für Gegenwartskunst(O.K現代美術センター)」.現代美術を対象とした実験的な施設だそうで,1930年代に作られたビルをPeter Rieplという建築家が98年にリノベーションしている.周辺が工事をしていたためか,今回の展示のためかよくわからなかったが,仮設の階段でいきなり2階に登らされる.webの写真と見比べてみると,正式な入口が塞がれていることもわかる(ブリッジもなくなっている!?).そんな導入部分に加えてラフな材料を多用したデザインも手伝って,建築までが仮設的なものに見えてしまった.

ここは企画展のみを行う場所で,「You'll Never Walk Alone」展が行われていた.ワールドカップ(ドイツ語圏なのでWM)に合わせた企画で,サッカーに関する作品が集められていた.訪れた時には「O.Kセンター」経営のカフェも設置されていて,イングランド×パラグアイ戦に盛り上がっている真っ最中だった.そんなタイミングに相応しい企画ではあると思うが,並んでいる作品がどれもこれもイマイチに思えた.建築自体が安普請に見えたために作品まで安っぽく見えてしまったのか,またはその逆なのかはよくわからないが,あまりよい印象を残さぬままに立ち去った.
後から知ったところによると,ここはアルス・エレクトロニカ開催時に関連展示が行われる場所であるらしい.確かに「アルス・エレクトロニカ・センター」よりはメディア・アートの展示場所に相応しいかもしれない.また「アルス・エレクトロニカ・センター」についても建物を中心に批判的なことを書いたが,その中の展示はフェスティバルから翌年のフェスティバルまでの1年間常設され,市民の誰もが作品と密接に関わることができることを意図しており,十分な作品の理解を助けるためにトレーナーも必要となるということらしい.(参考リンク:
何れにしてもフェスティバル期間中にリンツに行ってみないことには,これらの魅力が十分に理解できないのかも知れない.時間があればぜひ行ってみたい.
おまけに,リンツでもミュージアムの地図付きガイドブックが配布されていて(webではPDF版がダウンロード可能),街の中心にあるインフォメーションではお得な「Linzer Museumskarte」が販売されている.

美術 | Posted by satohshinya at August 3, 2006 0:16 | TrackBack (0)

結局重要なのは作品か?@linz

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「Landesgalerie Linz(リンツ州立ギャラリー)」も毎度おなじみのクラシカルな建築.ここも転用ではなく,1895年に展示施設として作られたようだ.創設自体は1855年に遡り,150年の歴史を持つ美術館.

これまたおなじみのようにいくつかの展示が同時に行われている.WappensaalではKatharina Mayerという写真家の個展をやっていて,上質なポートレイトに回転運動が加わった佳作で,更に実際に回転している様子が収められたビデオ作品もあった.展示室はこれもおなじみのフローリングに白い壁のホワイトキューブ.Kubin-KabinettはAlfred Kubinsという画家のコレクションを展示する専用の部屋.Gotisches Zimmerではコレクション展である「Selbstbildnisse」をやっていたようだが,既に見た記憶がない.FestsaalでもChristian Hutzingerの「Festsaal-bild 2006」をやっていたようだが,その夜のイベントに備えていたためか見ることができず.
そしてオーストリアで見た展示の中で最もすばらしかったと思うのが,Landesgalerie 2. StockでやっていたFiona Tanの「Mirror Maker」展.いわゆるプロジェクタを用いたメディア・アートの一種で,橋口穣二のように真っ正面から人物を捉えたビデオ作品と言ってしまえばそれまでだが,スクリーンの扱い方がとてもうまく,空間の完成度が非常に高い.まったく知らない作家だと思ったが,2001年の横浜トリエンナーレにも出展していたらしい.確かにこの作品は記憶にある.展示自体はホワイトキューブを暗くした,これもおなじみのダークキューブだったが,それでも作品に空間的なおもしろさによる強度があるためか,外部に面した小さな窓からはそのまま自然光を入れている.それでも十分成立していた.久しぶりに完成度の高いメディア・アート(と分類することもないけれど)を見た気がする.

美術 | Posted by satohshinya at August 2, 2006 0:32 | TrackBack (0)

科学博物館@linz

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アルス・エレクトロニカは世界的に有名なメディア・アートのフェスティバル.1979年から開催されており,87年からは「アルス・エレクトロニカ賞」も制定され,日本人では坂本龍一+岩井俊雄が『Music Plays Images X Images Play Music』で受賞している.そして96年に「Ars Electronica Center(アルス・エレクトロニカ・センター)」がオープンした.

そんな背景を持つセンターだから期待していたのだが,実際は美術館というよりも,どちらかというと科学博物館の様相を呈したものだった.メディア・アートが元々そういった展示となる可能性を秘めていることは理解できるが,少しゲームとしてのフォーマットが強すぎる気がした.使い方をていねいに教えてくれるトレーナーたちの存在が,より子ども向けのイメージを強めている.本当はアルス・エレクトロニカで発表された作品をコレクションする美術館を想像していたのだが…….
フェスティバルからはじまりセンター建設に至る道筋が,いわゆる箱もの美術館とは一線を画すものとして評価されており,この建物も機能転用などではなく,Walter MichlとKlaus Leitnerというオーストリア建築家によって新築されたもののようだ.しかし,この建築がひどい代物であり,それがまた追い打ちを掛ける.正直言って何を考えて設計しているのかよくわからない.
もちろんZKMでも子ども向けのプログラムには力を入れており,メディア・アートに限らずあらゆる美術館において子どもを対象としたプログラムを持つことは必須であろう.しかし,それらの美術館も子ども専用に展示を行うわけではなく,展示を子ども向けにわかりやすく解説しているといった場合が多い.そうでなければチルドレン・ミュージアムまで専門化すべきだろう.
それよりも,ここで問題となっているのはメディア・アートの持つゲーム的側面だろうか? もう少していねいに考えなければいけないことかもしれない.例えば岩井俊雄の作品を思い出してみると,ほとんどゲームのようなものがほとんどだけれども,一方でアートと呼べるような部分を必ず持っている.「アルス・エレクトロニカ」の作品がアートになっていないというと大げさだけど,結果的に建物とインテリアデザインによる空間が異なったものに思わせているのかもしれない.もちろんアートだからと,いかにも大事なもののように扱う必要はないけれども,科学博物館のようなフォーマットに押し込んでしまうと,その作品が訴えかける可能性を狭めてしまうように思える.老若男女がゲームのように楽しむことで,メディア・テクノロジーへの造詣を深めることは結構なことだが,もう少し別な作品との関わり方があるのではないだろうかと思っただけのことである.
ちなみに今年のフェスティバルのチラシには小沢剛の『ベジタブル・ウェポン』が表紙に使われていて,テーマは「Simplicity」.なぜ小沢剛?

美術 | Posted by satohshinya at August 2, 2006 0:20 | TrackBack (1)

ガラス好き@linz

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リンツにある「Lentos Kunstmuseum Linz(レントス美術館)」に行った.最近流行の全面ガラスの四角い箱はスイス建築家Weber & Hoferによるもので,2003年にオープン.理由はよくわからないけれども展示室が2階(といっても中2階があるので,実際は3階くらいの高さ)に持ち上げられていて,その下が巨大なピロティになっている.その軒下ももちろんガラス張り.展示室が最上階に持ち上げられているため,全面にトップライトを持った展示室が同一平面上に確保できているのだが,要するに建築家はこの外観をやりたかったのだろう.展示室の天井高さ自体は低くはないけれど,外形を四角く抑えた結果,全てが同じ高さとなってしまっているためかなり単調になってしまった.

「Nomaden im Kunstsalon」展というテキスタイルからソル・ルウィットまでを並べたよくわからない企画展と,シーレなどのコレクション展を開催中.ガラス天井とコンクリート床の展示室は悪くないかもしれないが,部屋の連続が単純なのか,部屋自体のプロポーションのせいか,あまり魅力的ではない.おまけに企画展エリアではトップライトの照明を交換しているとかで中に入れず,訪れたのは朝一番だったが,昼過ぎには入れるからもう1度来てくれと言われたが時間がなくて断念.そんな作業,開館時間内にやるなよ.結局コレクションは見られたけれども,企画展はテキスタイルを見ることができただけ.外壁のガラスも交換中でクレーンが横付けされていたり,大きな展示室は展示替えで使っていなかったり,全体的にやる気のない時に来てしまったらしい.グラーツ,ウィーンと展示替えに出会うことも多く,どうやらオーストリア中が同じタイミングで入れ替えているようだ.
地下にもプロジェクトルームがあって,Edgar ArceneauxとCharles Gainesというアメリカのアーティストによる「Snake River」展もやっていた.こちらはビデオインスタレーションを中心とした現代美術.黒いテラゾーの床だったと思うけど,この展示室も悪くはない.後で調べたところによると,このメインの展示室が2階に持ち上げられているのは,隣を平行して流れるドナウ川の氾濫を考慮しているとのこと.そうだとすると,この地下の展示室はどうするのだと意地悪なことを考えてしまうが,きっとコレクションの方が高価で大事ということだろう.
ちなみにこの美術館ではweb上でのコレクション公開を行っている.分類分けなどされていないので見にくいのだが,12,549点が収められているらしい.えらい.

美術 | Posted by satohshinya at July 29, 2006 7:22 | TrackBack (0)