北欧の報告-その2

Swedenの後Finlandへ。
主な目的はAlvar Aaltoを見ること。
通り過ぎるように見たものも含めると、4日間で10件強の建物を見た。
Aalto建築の特徴でもある『要素の分割』と『連続する縦線』。
Finlandを訪れてみて、彼の原風景であるFinlandの自然=白樺林の影響を改めて感じた。

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印象に残った建物を幾つか。
『Hlshinki工科大学のオーディトリアム』、『夏の家(実験住宅)』そして『Mairea邸』

■『Hlshinki工科大学のオーディトリアム』

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内部に入ってすぐ、空間『やわらかさ』が体に染み込んでくる。
それは白い空間に投影される『柔らかな陰影』と包み込むような『大きなスケール』によるものだろう。

連続した『湾曲トップライト』は、そのカーブによって、
空間の中にグラデーションのように融解していく影を作る。
大きなスケール感覚を作り出しているのは、『ルーバー』と『トップライト』の関係だろう。
構造体を這うように連続する『ルーバー』は、空間の中で定規の目盛と化し
空間の大きさを僕らに計測させる。
湾曲した『トップライト』は構造体上で、重なり合うように上方に伸び上がる。
重なり合うことで壁面の終点である窓枠を隠し、視線をその表面上で滑らせる。
つまり、境界のない空間、つまり『終わりのない空間』を作り上げている。

構成要素によって空間計測の可/不可を緻密に切り分けることで、
大きな羽根のような『やわらかくつつみこむ』空間把握を演出していた。

■『夏の家(実験住宅)』

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ここは何と言っても外部空間が素晴らしい。
『実験住宅』というサブタイトルのように、
半中庭の壁面・床面はレンガやタイルを始めとした素材の実験場となっている。

各面は様々な形態、大きさに分割され、各素材たちが、
様々な『操作』を伴って貼り付けられている。
『面分割』と分割された面内の『肌理の操作』は、
彼のライフワークである抽象絵画と共通点があるんじゃないかな。

(名作と呼ばれるものは少なからず)、彼の『建築形態』と『表面操作』は一体化している。
しかし、この住宅では『表面』は『形態』からはがされた状態で置かれている。
つまり、白いキャンバスの上で、様々なタッチが検討され、用意され、置かれる場所を待っている。
建築の諸条件に直面した時、Aaltoは多様なタッチをもってこれを形態化・建築化していたのだろう。

現在はAalto遺族の別荘として使われながら、一般公開されている。
世界遺産の分類で言うと「文化遺産」というよりも「自然遺産」に近いこの『環境』。
資金や観光地化の問題も含め、この『環境』をどのように公開/保存していくかが
アアルト財団にとって非常に難しい検案であるとのことでした。

■ 『Mairea邸』

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今回の旅行でもっとも衝撃を受けた建築が『Mairea邸』だった。
建築要素が執拗に、そして周到に分割され、粒子化していた。
分割よりも分解、いや『溶解』と呼ぶべきなのかもしれない。
そこに存在する全ての要素が様々な方向や大きさに分割されている。

全ての要素が溶解しあいながら、階段やテラス、柱、壁といった建築要素として成立している。
溶解は建築と呼ばれる『もの』にとどまらず、敷地を取り囲む白樺林のとも関係を結んでいた。

内部、外部、敷地、環境・・・。
僕らが意識しているこれらの境界は、この『融解』によってあからさまに乗り越えられている。


曲面、マッピング、細分化、白と色・・・・・
Alvar Aaltoの建築言語は、コンピュータの設計ツールによる現在の[3D architects]と
同じものとして分類できるだろう。
しかし、そこには明らかに異なる精神性が見られ、
ある意味で [3D architects]の先を行っている気がした。

■ ミュールマキ教会・教区センター/ Juha Leviska

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この教会は凡庸な外部空間比べ、内部空間が素晴らしい。
面の「細分化」、「連続」・「不連続」・・・といった操作。
ここでも周辺環境の白樺林が効いていて、内観の垂直連続線と融解した空間そこにあった。

長く垂れた照明群は、ボリュームの中に打たれた「座標点」のようで
空間を「何もない部分」から「何かに満たされている部分」に変換している。

あと、使われている素材が一般的なのが印象的。
無理せず、良い空間が作られていることに脱帽した。


Finlandで見た建築
■Alvar Aalto
・Hlshinki工科大学
    オーディトリアム/図書館/寄宿舎/プラント
・Paimioのサナトリウム
・Mairea邸
・Alvar Aalto美術館
・ユベスキュラ工科大学
   (フィンランド語の特殊文字が表記不可能。Jyvaskylaに似た綴り)
・サユナットサロの村役場
   (フィンランド語の特殊文字が表記不可能。Saynatsaloに似た綴り)
・夏の家(実験住宅)
・Voksenniska教会

■ その他
・Dipoli学生センター / Raili & Reima Pietila
・ミュールマキ教会・教区センター/ ユハ・レビスカ(Juha Leviska)
   (フィンランド語の特殊文字が表記不可能。Myyrmaki/Juha Leviskaに似た綴り)

Architecture Space / 建築, Travel / 旅行 | Posted by SUGAWARADAISUKE | 菅原大輔 at 9 12, 2005 5:35 | TrackBack (1)

北欧の報告-その1

北欧に行ってきました。

古典的な建築様式と近代建築の過渡期を生き抜き、
北欧の近代建築の道を切り開いたEric Gunner Asplund
いち早く近代建築を自分の道具の中に融解させ、
形態操作としての『近代建築』を乗り越えようとしたAlvar Aalto
この二人の作品を中心にSwedenとFinlandを巡ってきた。

先ずはSwedeのEric Gunner Asplund。
・森の火葬場
・映画館「Skandia」
・Bredenbergs百貨店(だと思われる)
・Stokholm市立図書館
をみた。
その中で良いと思ったのは『森の火葬場』と『Stokholm市立図書館』。

■『森の火葬場』のはSigurd Lewerentzとの共作で
ランドスケープと建築の融合が評価されている作品。
公園のような場所にいくつもの建物が建っていて
移動と共に移り変わる視界が 周到に計画されている。

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この場所については僕が改めて何か書くことはないと思いつつも、一言。
高台になっている広場から『復活の礼拝堂』までの経路は
圧倒的な凄みを持っていた。
歩いていくと

視界が開けた芝生の空間

移動によって小さい葉の塊がチラチラする空間

列柱のように高く林立する空間

壁のように生い茂った木が威圧感をもって連続する空間

『復活の礼拝堂』

とつながっていく。
樹種の変化でここまで空間の質が劇的に変わっていくのかと関心。
地面の上に粒子のように広がっていく墓達が、
実はただ芝の上に直接打ち込まれただけであることにも驚く。

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『聖十字礼拝堂』内部では、表面に対する濃密な操作が行われていた。
中心に据えられた「棺置き場兼火葬装置入り口」に向かって
床の石版が吸い込まれていくように面割されている。
その石版の表面にはドットが打たれていて、
棺への テクスチャーとしての流れを示している。
建築の内部形態としては棺に向かって微妙な傾斜が付けられているんだけれども
形態と言うよりも、執拗なまでの表面操作が空間に流動性を与えていた。

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祭壇前のフレスコ画も面白い。
おわんの一部のように湾曲し、空間を包み込むような壁面が額となっている。
そこには全方向に向かって、複数の消失点を持つ絵があった。
線遠近法ではなく、環境視としてのリアルな視覚システムが意識されている表現だった気がする。

■『Stokholm市立図書館』
見所は中心にある円形の大空間のダイナミズムだろう。
空間の表面素材と化した「群本」と、雲のように上部に連続的に広がる白い壁面の「起伏」。
この要素が、屋内としては突出している空間の大きさを確実に観察者に計測させる。
あと、一見、建築家の欲望だけで構成されたかのようなこの建築が
非常に機能的に作られていることに感心した。

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Eric Gunner Asplundについては、最近写真集兼開設本が発売されたようなので
興味のある方はそちらを見ていただけると良いと思います。

■『聖MARK教会』
森の教会の共作者Sigurd Lewerentzの『聖MARK教会』。
この建築もとても面白かった。
主な素材はレンガなんだけれども、そのレンガの可能性を徹底的に追求している建築。
壁面のレンガは、スケール操作、空隙、異素材との関係、定規としてのレンガ・・・・・・・
といった様々な視点で実験的な操作が行われている。
レンガの一つ一つが、大きな解像度で強い印象を形成しているようで、
本当に印象派のボテッとしたタッチのように扱われていた。
LewerenztはAsplundの影に置かれてしまう傾向があるが、
もっと評価されて良い建築家だと思う。

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■『Stokholm近代美術館・建築博物館
『Stokholm近代美術館・建築博物館』では前からすきだった『Lars Englund』の展覧会が。
迷わず高価な作品集を買う。
この偶然のおかげでその夜は美味しいビールが飲めました。

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Finlandについてはまた次回に。

-Swedenで見た建築--------------------------------
・森の火葬場 / Eric Gunner Asplund, Sigurd Lewerent
・映画館「Skandia」/ Eric Gunner Asplund
・Bredenbergs百貨店/ Eric Gunner Asplund
・Stokholm市立図書館/ Eric Gunner Asplund
・聖MARK教会 / Sigurd Lewerent
・コンサートホール / Ivar Tengbom, Andres Tengbom
・Stokholm市庁舎 / Ragnar Ostberg
・Stokholm近代美術館・建築博物館/ Rafael Moneo
・王宮、その他観光地


Architecture Space / 建築, Travel / 旅行 | Posted by SUGAWARADAISUKE | 菅原大輔 at 9 4, 2005 7:18 | TrackBack (0)

巴里の素材

僕が勤務する事務所は、2003年の設計競技で「Helold-100 Logements-」という
集合住宅を獲得した。巴里19区に建設予定。
現在、この敷地内で地質汚染が発覚し、土壌改良の検討も含め建設が先送りになっている。

敷地の土の話をしているときに、この物件を担当しているPhilippeが面白いことを教えてくれた。
巴里の地下には無数の空洞があるということ。
と言うのも、巴里の地下は『石切り場』となっていて、巴里に建つ建築物はその石を積むことで作られているという。観光名所となっている共同地下墓地『カタコンブ(catacombes)』も元々は石切り場跡だそうだ。
古い(土着的?)建築物はその地方で良く取れる素材によって作られる。これが、各地方の町並みの色や素材感を決定しているのは常識だけど、大都市巴里の町並みが、『周辺で取れる素材』ではなく、『地下にあった素材』を直接地上で再構成することで成り立っていると聞かされて驚いた。
つまり『巴里の町並み=巴里の地下の色』という事実。

現在、新しい建築物を建設する場合、『石切り場跡』の空洞はコンクリートで充填され、後に新しい建築物の基礎が打たれる。そして、その上に載る新しい建築物にはグローバルに流通する素材、鉄、コンクリート、ガラスが使われる。
『土着性』を賛美するわけでもないし、これを素材の問題に単純化して考えるつもりは全くないけれど、巴里の建築物が持っている土地との親密な関係が、新たな建設によって少しずつ失われていることに寂しさを感じた。

Architecture Space / 建築, Dialy / 日常, Paris / パリ, Urbanism_City / 都市 | Posted by SUGAWARADAISUKE | 菅原大輔 at 7 24, 2005 19:47 | TrackBack (0)

JAKOB+MACFARLANEの展覧会-その2

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前回の日記にあるように、
JAKOB+MACFARLANEの展覧会のオープニングにパーティーに行ってきた。

起伏を持ったダンボール材の塊が空間の真ん中に浮いている会場構成。
その塊には幾つかの穴が開いていて、
そこに模型とプレゼンテーションシートが貼ってある。
四つある模型のうち二つは3Dプリンターによるもの。
データーがそのまま形態として出てくるこの技術はやはりすごい。
頭で仕組みがわかっていても、実際模型を手に取ると技術の力を実感する。

また、ダンボールの塊の中にはプロジェクターも埋め込まれており
会場の大きく白い壁面に各プロジェクトの映像が投影されていた。

空間の真ん中に何かを置いて、その周辺に場を生み出すという会場構成は
学生時代に担当させてもらったギャラリー間『古谷誠章展 』を思い出す。

誤解されるといけないので
「今回の会場構成は僕は担当していない」とだけは書いておこうかな。

展示プロジェクト
- Restaurant Georges
-Librairie Florence Loewy Books by Artists
-Theatre Maxime Gorki
-Maison H
-100 Logements
-Renault Square Com
-Docks de Paris
(プレゼンテーションシートのみの展示も含む)

Architecture Space / 建築, Event Lecture / イベント | Posted by SUGAWARADAISUKE | 菅原大輔 at 6 20, 2005 7:40 | TrackBack (0)

JAKOB+MACFARLANEの展覧会

フランスのオルレアン(ORLEANS)にあるFRACにて
JAKOB+MACFARLANEの展覧会が開かれています。
会期は2005年6月18日から10月23日まで。

そして今日の夜( 6月17日)にはオープニングパーティーが
行われます。
事務所に勤務するみんながこのパーティーに出席し
ORLEANEで一泊してから巴里に帰ってきます。

昨日、建築家4組が参加する国際設計競技をまとめた。
我々以外の参加者は、既に巨匠的な建築家ばかりで、
(うち以外はEL Croquisの特集号が発行されている建築家)
そんな人々と同じ土俵で競っていることの実感がわかない。
そんなこともあり、いつも以上にJAKOB+MACFARLANEの
プロジェクトに対する執念がすさまじかった気がする。

そんなコンペも終わったので、明日は楽しく、騒いで来ようと思います。

Architecture Space / 建築, Event Lecture / イベント, News / 新着情報 | Posted by SUGAWARADAISUKE | 菅原大輔 at 6 17, 2005 7:30 | Comments (1) | TrackBack (0)

安藤案も建設中止

ここで僕がプロジェクトの行く末を心配するには訳がある。
その理由として、DES HALLESの設計競技のゴタゴタに加え
安藤忠雄さんが設計競技で勝った美術館を含む
Seguin島の再開発自体が
ここ
にあるように簡単に中止になってしまったことが挙げられる。

Seguin島の件は、フランスの大富豪PINAULT(PRINTEMPSFNACの所有者)と
Boulogne市との方向性の不一致が原因だが、
フランス国内におけるの様々なレベルでのオーガナイズの悪さを
非常に良く(も悪くも)象徴している。

Architecture Space / 建築, Art / 美術, News / 新着情報, Paris / パリ, Urbanism_City / 都市 | Posted by SUGAWARADAISUKE | 菅原大輔 at 5 30, 2005 9:36 | TrackBack (1)

国際設計競技に勝つ

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JAKOB+MACFARLANEにおける僕の初担当プロジェクトが
国際設計競技で1位を獲得した。
現在、プロジェクトの実現に向け、市との調整が始まっている。

それに合わせて、Pavillon De L’Arsenal(日本で言うギャラリー間)で
上位11案のプレゼンテーションと模型が展示されている。
そこにはFuture Systemsやフランスの若手建築家Manuelle Gautrandの名前もあった。

設計競技の概要をさっと書いてみると、
セーヌ川左岸再整備プロジェクトの一つで、
国立図書館近くの川岸に
昔、倉庫として使われていた12000平米の建物が建っている。
セーヌ川に開きながら、商業施設、文化施設等、レジャープレイスを
この建物の躯体を活用して構築するのがパリ市からの要求。
躯体を利用するのは、セーヌの水運で発展してきたした「パリの記憶」を
オブジェクトとして継承しようとするものだ。
内部の諸施設は、今後の市との協議で変更があると思う。

圧倒的な敷地の特性(セーヌ川との関係)と
特殊な既存躯体を残した改修計画と言った強いコンテクストに導かれ、
どの案も方向性が非常に似ている。
躯体は、セーヌ川に平行して細長く伸びており、
川の直角方向には4つのスパンを持っている。
「川と直角方向の4スパンに異なる機能、または形態をパラレルに並べた案」
もしくは、
「躯体を皮膜でまるごと包み込み、その皮膜が設定条件によって変形していく」
というのが、だいたい全ての案が持っている方向性。

僕らの案は後者に属していて、動脈のように躯体から皮膜が盛り上がり
そこが館内の動線や屋上レストランのサービススペースになるというもの。
JAKOB+MACFARLANEの作品Restaurant GEORGE(Centre Pompidou内)の
床面の一方向への形態操作を、屋根面・外壁面の3次元方向への形態操作に
拡張したものだと言えるのかもしれない。

パリ市内、もしくは周辺の巨大プロジェクトが立て続けに、
変更、中止されているだけに僕らのプロジェクトの行く末が心配だ。
「この案は実現するのだろうかと」と不安になってしまう。

Architecture Space / 建築, Event Lecture / イベント, News / 新着情報, Paris / パリ, Urbanism_City / 都市 | Posted by SUGAWARADAISUKE | 菅原大輔 at 5 30, 2005 8:42 | Comments (3) | TrackBack (1)