墨田区/豊島区在住アトレウス家

『トウキョウ建築コレクション2012 全国修士設計・論文・プロジェクト展』より。

「墨田区/豊島区在住アトレウス家」は、ギリシャ悲劇を現代の実在するまちや建物にインストールするプロジェクトである。「墨田区」は「墨東まち見世2010」の一環、「豊島区」は「東京アートポイント計画」の一環として行われた。
コンセプト・構成・演出/長島確 コラボレーター/福田毅 武田力 ドラマトゥルク/佐藤慎也 協力/日本大学佐藤慎也研究室、東京藝術大学市村作知雄研究室

墨田区在住アトレウス家

Part.1:2010 年7月31 日( 土)8 月1日( 日)
Part.2:2011 年1 月13 日(木)〜16 日(日)
Part.3×Part.4:3 月16 日(水)〜20(日)(震災により中止)

墨田区東向島の一軒家を借り、そこにギリシャ劇の一家がかつて暮らしていたという設定で、家やまちを再発見していく演劇プロジェクト。「旧アトレウス家」と名づけられた実際の家屋のディテールを手がかりに、アトレウス家の親子三代にわたる生活を具体的に想像し、数々の事件をたどる。公演は4部作で構成されている。
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墨田区東向島にある民家が舞台

―地域を見つめる―
作品づくりの土台となる地域のリサーチを行った。地域住民を交えたお話会やギリシャ劇の読書会、ワークショップを重ね、向島の歴史や暮らし方、古い建造物や地域の住民までもが作品を構成する要素として取り入れられた。

―民家や地域の軌跡を探る―
柱や壁に残された傷や落書きは、かつてこの家に住んでいた住民の痕跡である。これらの痕跡をたどることから登場人物たちとの接点を想像し、現実とギリシャ悲劇を錯綜させる。
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地元の大工さんによる建物案内
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地域の風景
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柱に残った痕跡から想像する

―上演形態を考える―
狭い家の中やまちに出て演劇作品を上演するにあたり、その場所を用いるための上演形態を考える作業を行った。
Part.1では、観客が家の中を移動しながら作品を鑑賞する上演形態を採用した。シーンとシーンの間には自由時間が設けられ、観客は自由に家の中を見て回ることができる。また、隅田川花火大会と同時間にのみ特別版の上演を行った。
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Part.2では、一家のある正月を迎える数日を描き、同時多発的にさまざまなシーンが家の各部屋で行われた。観客は上演場所とシーンの時系列が掲載されたタイムターブルをもとに自由に移動し、パフォーマーと出会うという上演形態が取られた。
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Part.3× Part.4では、家を出てまちを舞台にした上演が計画された。パフォーマーが決められたルートを巡回し、観客がそれに従いまちを歩く複雑な上演形態が考えられた。これらは、これまでの演劇のスタイルとは異なり、多くを観客の意思にゆだねる上演形態となっている。

—ニュースレター—
フィールドワークによって見つけた向島での暮らしを紹介する。のニュースレターを公演に合わせて発送した。地域で発見した不思議なものや建物をはじめ、向島で生活をして感じたことなど、ささいな出来事や気づきを伝えている。それとともに、アトレウス家の歴史についても語られている。
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出演・参加/福田毅、武田力、稲継美保、聞谷洋子、山崎朋、石田晶子、立川真代、東彩織、西島慧子、堀切梨奈子、和田匡史、大谷能生、石田龍太郎、EAT&ARTTARO、藤井さゆり、原友里恵、坂上翔子ほか
制作/戸田史子
主催/東京都、東京文化発信プロジェクト室(東京都歴史文化財団)


豊島区在住アトレウス家

2011 年9月13 日(火)〜18 日(日)

豊島区にある公民館(千登世橋教育文化センター)を舞台に、ギリシャ悲劇に登場する家族がそこで「借り暮らし」をしている設定で上演された作品である。墨田区でのPart.3× Part.4が震災の影響で中止になり、「住む家を失った家族が、一時的に暮らした建物とまち」というテーマが設けられた。公演には上演時間に利用されていない施設の部屋を借り、毎回異なる部屋で上演を行った。
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舞台となった公民館の広場を中心に物語が複雑に絡み合う

−居場所を考える―
公共空間をいかにして住まいに変えるかを考えるプロジェクトとなった。制作においては、施設にある椅子やテーブルなどの身近にある備品だけを使って「居場所」を考えた。その場所で実際にある時間を過ごすことは「居心地のよさ」について考えることでもあった。
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家具の配置スタディ
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部屋の備品を使い居場所をつくる

─公共空間を上演空間に変える―
公共空間を使用したこの公演の特徴は、日常生活を送る利用者達とパフォーマーが一見見分けがつかないところにある。観客は、ある日常のワンシーンに放り出され、その場を読み取ろうとする。それらを結び付けるのは、あちこちに置かれた短いテキストだけである。
日常と非日常が交錯すること、劇場では起こらないパフォーマーと観客と第三者(施設利用者)による新しい関係性が生み出された。
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—移動型コミュニケーションラジオ—
「Atreus Tune」は、雑司が谷周辺のお寺やカフェ、カラオケ店などへ最小限の機材を持ち運び、毎回インターネット回線を利用して生放送を行った。放送回ごとに居心地のよい場所を、フラフラとまちへ探しにゆき、濃厚な音楽とまちの音を配信しながら地域について考える番組を発信した。
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出演・参加/福田毅、武田力、稲継美保、聞谷洋子、山崎朋、石田晶子、立川真代、東彩織、西島慧子、堀切梨奈子、和田匡史ほか
制作/西島慧子、堀切梨奈子
主催/東京都、東京文化発信プロジェクト室(東京都歴史文化財団)、アートネットワーク・ジャパン

写真/冨田了平

2012年度, パフォーマンス, 作品 | Posted by satohshinya at 7 22, 2012 13:25


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